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  • 執筆者の写真渕上

帰る家

「あっ、しまった! 首輪が抜けちゃった!」

コスモスの揺れる秋の夕暮れです。ある御夫妻が愛犬のクリちゃんを散歩させていた時でした。何を怖がったのか、クリちゃんが急に後ずさりを始めたかと思うとそのままスッポリ首輪が抜けてしまいます。次の瞬間には脱兎のごとく逃げ出しました。

「おーい、待てー! クリー!」

夫妻はあわてて追いかけましたが、悲しいかな人の足では自転車でスポーツカーを追いかけるようなものです。たちまち見失いました。

「大変だぞ、どうしよう・・・」

「いやだわ、クリちゃん、どこなのー」

クリちゃんは北九州の山中で、イノシシ罠にかかり衰弱しきったところを危うく助け出された犬でした。しかし手厚い看護を受けてもなかなか人になつかず、それから七カ月間親身な世話をしてもらって、なんとか里親に出せるようになったのだそうです。そんなクリちゃんを夫妻が引き取ってから五カ月がたっていました。食事に散歩にブラシかけ、心臓が悪いので薬も飲ませ一生懸命世話をしました。それだけ可愛がってもクリちゃんはいつもビクビクしていたのです。

夫妻はその辺を懸命に探し回りましたが、やはり見つかりません。

「仕方がないね、とりあえず、警察と愛護団体に連絡しないといけないね。」

車の中でそんなことを話しながら家に帰った時でした。

夕闇の庭に尻尾を振って迎えてくれるクリちゃんがいました。なんとクリちゃんはすでに家に帰っていたのです。

「おお、お前、帰ってたのか!」

「クリちゃん、あなた、ここが自分の家だと思ってくれたのね。そうなの!ありがとう、ありがとうね!・・・」

二人はクリちゃんを抱きしめました。

・・・・・・

良かったですね。犬だって人だって、帰るべき家を持っているって、幸せですね。

今夜帰る家があることは当たり前の事のようですが、それってすごく幸せですよね。

そして同じように、高齢になり寝たきりになる人生のたそがれ時に、帰っていく天の故郷を持っていたら、それも幸せでしょうか。

聖書にこんな言葉もありました。


「もし彼らが思っていたのが、出て来た故郷だったなら、帰る機会はあったでしょう。

しかし実際には、彼らが憧れていたのは、もっと良い故郷、すなわち天の故郷でした。」

ヘブル書11:15,16


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